今回は1985年から1991年の間に販売されていた2ドアクーペのアルシオーネのご紹介です。まさにクーペやデートカー、スペシャリティカー、スポーツカーが流行っていた時代を象徴するようなエクステリアで、アメリカ市場へも果敢に挑戦したモデルです。ちょうどバブル期から崩壊直後までという荒波をくぐり抜けたアルシオーネは、スバルでのフラグシップだったこと以上に歴史的な忘れられないモデルの1つだと思います。キャッチコピーは「オトナアヴァンギャルド」と大胆なものでしたが、様々なストーリーが尽きないアルシオーネとは一体どんな車だったのでしょうか。
スバル唯一のリトラクタブルヘッドライトと恐るべき低空気抵抗
出典元:ウィキメディア
何と言っても最大の特徴はリトラクタブルヘッドライトです。実はスバルでリトラクタブルヘッドライトを持つのはアルシオーネ以外ありません。そして車体はウェッジシェイプでいかに空気抵抗を抑えることにこだわり、同時に見た者を釘付けにさせる印象的なエクステリアを生み出しました。
CD(空気抵抗係数)値を0.29という数字を叩き出しており、日本車では今まで0.30を切ったことがなかったのでこれは非常に大きな快挙でした。またVSターボでCD×A(前面投影面積)は0.53、CLR(揚力係数(後))は0、CLF(揚力係数(前))は0.10という高い空力性能が示されています。
といってもなかなかこの数値を見てピンとくる人も少ないと思います。はっきりこのような具体的な数値が発表されたのはアルシオーネが初めてといっても過言ではなく、アルシオーネが登場してから他社のカタログにも空力についての記述がなされるようになりました。空気抵抗を抑えることが燃費を向上させ、高速でも安定した走りに貢献されることは分かっていたので今までもどのメーカーも意識し抑えようと試みていましたが、ここまで徹底した低空気抵抗は今までありませんでした。
ウェッジシェイプであること以外にも空気抵抗を抑えるための工夫がされており、フロントとリヤウィンドウの傾斜角が同じ28度であり、ドアミラーはボディからフローティングさせているスペースドアミラーが採用されています。複雑な三次元成形のリヤウィンドウを採用したフラッシュサーフェス・ラップラウンド・キャビンが使われており、ライズアップ格納機構が付いているコンシールドタイプ・シングルブレードワイパー、エアプレーンタイプドアハンドルは可動式でボディ凹凸をさらに減らしています。
まだまだこだわりの点はあり、サイドエアフラップでタイヤハウスへの風の巻き込みを防止し、ボディの下を流れている空気を整流してスムーズに流せるリヤアンダースポイラー、アンダーフロアをフラットボトム化させ、ハイデッキとダックテール形状にすることにより空気抵抗と揚力をさらに抑えています。もちろんリトラクタブルヘッドもフロントフードを低くすることに一躍買っています。ここまでこだわっているモデルはまずないと思われます。これらがまた独創的なエクステリアを生み出す源にもなっているのです。
インテリアは当時の流行りだったスペシャリティ・クーペに則り、低いシートにセンターコンソールから運転席の前に広い平面が広がっておりそこにスイッチやメーター類が並んでいる圧倒されるようなインストルメントパネルとなっています。エレクトロニック・インストルメントパネルというまるでテレビゲームのようなデザインになっているデジタルメーターも気分を盛り上げてくれる要素の一つだと思います。
北米では…
出典元:ウィキメディア
アメリカではXTクーペという名前で販売されていました。デトロイト・モーターショーでアメリカへ本格的にデビューし各国のモータージャーナリストを招き大規模な試乗会を行い、アメリカ市場を盛大に切り拓いていく予定でした。そして無事販売直後は人気で、順調に売り上げを伸ばしていました。一見男受けしそうな(?)エクステリアですが、意外にも女性に人気でした。コンパクトなので運転しやすくスマートなエクステリアが受けたようで、女性ユーザー比率は64.3%という情報もありました。
ちなみにアメリカ仕様と日本仕様の大きな違いとしては最低地上高の安全基準を守るために高めに設定されているところが挙げられます。しかしながらどのメーカーもぶち当たった壁である1985年のプラザ合意で急激な円高となり急激に販売数が低下していきました。
仕方なく元々4気筒エンジンでしたが2気筒増やし6気筒で排気量を2,700ccとしXT6という名前で1988年に販売開始されました。その前はお手頃な値段で受け入れやすかったのですが、XT6は高級路線で先進的なモデルということで売り出したのでした。正直あまりにも車そのもののテーマが蔵替わりしてしまったので、なかなか受け入れられず思いのほか苦戦することとなりました。
参考:スバルの買取専門ページです
というのもスバルは当時アルシオーネとレオーネ、ジャスティをアメリカに売り出していたのですが、車自体は最高で面白いラインナップなのですが、如何せん収益率は悪いのでなかなかアメリカでやっていくのは至難の業となってしまい、業績は低迷してしまいました。結局アメリカでの販売は好調することなく、後継であるアルシオーネSVXにアメリカでの再起がかけられることとなってしまいました。
2015年に生誕30周年記念行事
アルシオーネは強い個性がある上、今となっては大分台数が減ってきている貴重なモデルであることから、アルシオーネ・オーナーズクラブ「XAVI」(クサビ)というアルシオーネのオーナー達による会があります。クサビの由来はアルシオーネがウェッジシェイプ、クサビ形をしていることから名付けられました。
そこでは53名(2015年調べ)のオーナーがアルシオーネについて様々な情報交換を交わしたり、度々ミーティングも行われており5年に1度には盛大な記念行事まで行われています。2015年には生誕30周年を迎えたということで当時の開発部長だった高橋三雄氏とデザイン担当だった碇穹一氏を招いたイベントを行ったというので驚きです。サイトも開設されていますが、なんと海外からのアクセスもあるとのことです。
ただこの会ではオーナー同士の交流だけではなく、もうこの少ない台数なので修理やパーツを見つけるのが困難になりつつあるので、「このパーツは純正のものはもうないけど、あのパーツだと代わりになる」「このような故障がありましたが、このようにして直してもらいました」などそれぞれのアルシオーネの状態を良く保っていくことが大きな理念となっています。自分一人だといざということがあったとき対処方法が分からなかったり、合うパーツが見つけられないこともあります。そういう時にお互い助け合えるよう現在も活発な交流が行われています。
まとめ
スバルで非常に独創的なモデルだったアルシオーネ、現存台数は約250台ほどと言われており非常に希少な車となっています。上記で紹介したXAVIでは53名のオーナーが会員となっていると説明しましたが、そうなると残りの200台はどこにいるのかとXAVIも繋がりたいと懸命に探されているようです。そんなことまで行われるようなモデルはなかなかないように思います。実用性や機能、燃費とかそういうものを超えて愛される、愛され続けるモデルなのでしょう。
今まで生産終了されたモデルはたくさんありますが、その中でもアルシオーネはもうまず再販はないでしょうし、似たようなモデルすらももう出てくる可能性は限りなく低いと思います。現存しているアルシオーネが少しでも元気で走り続けるよう祈るばかりです。
[ライター/A. Oku]